実験と計算の融合による次世代計算創薬法の開発

(実験と計算の融合による次世代計算創薬法の開発)

創薬に関わる科学は、その行程の上流から分子生物学や有機合成化学に始まり、構造生物学、薬理学、薬剤学等の自然科学系の応用科学のみならず、医薬品候補を臨床で商業的使用できるようになるまでには、医療統計学やレギュラトリーサイエンス、医療経済学といった社会科学の知見も必要とするような総合科学であり、バイオ医薬品と分子生物学の事例のように、新しい学問分野の知見が創薬に応用されるたびにイノベーションが起こり、それらの知見を応用してブロックバスター(年間1000億円の売上を上げるような医薬品)が生み出されてきた。

しかしながら、既存の歴史ある学術分野と新しい学術分野を用いた本来イノベーションを起こしうる学際的研究は、数多くの専門分野を内包する創薬科学であるがために、学術分野間の融合やコミュニケーションは難しくなってきている。

個人的には、その特徴的な事例が、in silco創薬(計算、Dry)と化合物スクリーニング、構造最適化と行った分野(実験、Wet)間の壁であると考えている。2000年代初頭には安くても1000万円近くもする大型計算機を自前で設置して計算科学の専門家が計算を行った結果を用いて、1個数万円以上する化合物を1000種以上購入して生物活性の評価を行って、やっと数個のヒット化合物が得られるといった、とても大学等の公的研究機関での研究予算ではSBDDが実施できないような時代もあった。このような膨大のコストと専門性の壁がWetとDryのコミュニケーションを妨げていたと思われる。

しかしながら、近年では、一定程度以上のプログラミングに関する知識があれば、産総研の福西らが中心に開発し、無料で提供されているmyPrestoでin silico screeningに必要なほぼすべての計算が可能となる。加えて、計算時間を短縮するための大型計算機は我々も活用させていただいている北海道大学情報基盤センターのレンタルサーバーやAmazon Web Servicesのようなクラウドコンピューティングサービスを用いることよって、以前とは比べ物にならない低コストで計算が実施可能である。また、東京大学創薬機構等が提供するナショナル化合物ライブラリーを活用すれば、別途管理機関との契約や報告が必要となるが、1000種以上の化合物もたった数万円で取得可能な環境となってきている。残念ながらその後の評価コストは以前の状況とほぼ変わりないが、全体のコストは充分大学等公的研究機関の1研究室で実施可能なレベルになってきていると思われる。加えて、研究者1個人が両方の知見に精通し、SBDD研究を行うことも不可能ではなくなってきている。

Docking simulationにおける並列計算概略図

並列化サーバを用いたin silico研究を実施する際に設定しなければならない計算パラメータを適切に設定するためには、関連ソフトウェアが比較的ユーザーフレンドリーとなったとは言え、初歩的なプログラミングの知識と創薬研究に対する深い経験と知見が必要である。我々は、このような人材育成とアカデミアでの成功事例を作り出すことこそ、このようなWetとDryの壁を取り除く一助となると考え、ウイルスや緑膿菌のような特に医療ニーズの高い感染症ターゲットに対して、SBDDを用いて創薬研究に取り組んでいる。